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真実 4

Author: 煉彩
last update Last Updated: 2025-09-10 19:56:42

「早くどいて。今日は私に何の用事?またいつものように……」

 いつものように彼に身体を預ければいいの。

「シャワー浴びてくる。予想よりも帰るのが遅くなった。ベッドにいて?」

 彼は着ていたスーツを脱いだ。

「わかった」

 私はベッドへ行こうとしたが、加賀宮さんに手を引かれ止められた。

「なに?」

「シャワー、一緒に浴びる?」

 彼の言動に

「浴びるわけなっ!痛っ……」

 呑気な彼の言葉に思わず大きな声を出してしまった。

 口角が急に上がったため、叩かれた頬に痛みが走る。頬に手を当ててしまった。

「どうした?」

 様子がおかしい私に加賀宮さんが声をかけてくれたが

「なんでもない。シャワー、浴びてきて」

 孝介に殴られたとは言えない。

「どこか痛いの?」

 彼は顔を歪ませている私を心配してくれているみたいだ。

 そっか。どっちにしろ、こんな感じだったらキスだってできない。彼に身体だって預けられない。

「顔を……。ぶつけたの。だから痛いだけ。ごめんなさい。やっぱり今日は私、何もできない。許して下さい」

 彼はそんなことお構いなしに、契約違反だと責めるのだろうか。それとも――。

「顔をぶつけたって、どこにぶつけたんだよ。ちょっと見せて」

 隠している私の手を退けようとした。

「イヤ!」

 抵抗しようとしたが

「命令」

 彼の一言で身体の力が抜けた。

 加賀宮さんが私の頬を見る。

「触るよ」

 そしてそっと優しく彼の手のひらが触れた。

「熱感ある。化粧で隠れているけど、よく見ると腫れてる」

 彼はそう言い、私をベッドに座らせた。

「ちょっと待ってて」

 彼は冷蔵庫の中を見て、何かを探している。

「大丈夫だから」

 私の言葉には返事をしてくれない。

 彼はアイスノンをタオルで包み、私の頬に静かに当てた。

「しばらく冷やして」

 加賀宮さんは、私の隣に座った。

「ありが……と」

 冷たくて気持ちが良い。

 適切な処置をしてくれた彼に戸惑う。

「正直に言え。どこでぶつけた?九条家のお嬢様だろ、どうして医者に行かない?旦那は何か言わなかったのか?」

 返答に困る。どうしよう。なんて言えばいいの。

 無言の私に

「まさか、旦那に殴られたとかじゃないよな?」

 ピクッと身体が反応してしまった。

 YESともNoとも言えない。

 ふぅと加賀宮さんは溜め息をついた。

「俺はYESと捉えるけど、良い?」

 これ以上、否定する理由もない……よね。

 私はコクっと頷いた。

「どうして殴られたんだ?」

 まるで虐められた理由を聞いてくれる親みたい、彼の雰囲気が変わった。

 初めて会った時と同じような、俺様じゃない誠実な加賀宮さんに戻ったみたい。

「働きたいって言ったの。パートでも良いからって。そしたら立場をわきまえろって怒鳴られて、それで……」

「殴られたのか?」

「うん」

「殴られたのは、初めて?」

「そう……」

 加賀宮さんは

「美月の環境のことは前にBARで聞いて覚えてる。簡単に別れることができないことも」

 彼は私をそっと抱き寄せ

「痛かったよな」

 ただ一言そう言ってくれた。

 私の中で何かが溢れ出し、涙がツーと頬を伝った。

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